みーぽんBLOG from カリフォルニア
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【書評】「世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す」
世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す 世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す
ジョセフ・E. スティグリッツ (2006/11)
徳間書店
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スティグリッツの最新刊をようやく読み終えました。日本語のタイトルはやや扇情的ですが、原題の "Making Globalization Work" の通り、グローバリゼーションがうまく働くようにするにはどうしたら良いか、現状批判にとどまらず、今のグローバル経済の歪みを正して、より公平なグローバル社会をもたらすための処方箋を多数示している本です。
スティグリッツはそもそも「情報の非対称性」という点に着目してノーベル賞を受賞した学者です。市場資本主義は机上の論理では、売り手と買い手が同じ情報を持っていて、論理的な判断を行った上で取引を行うことになっているが、現実はそうなっていないと看破したわけです。

前著の「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」では、主にIMFの政策批判を展開していたわけですが、今回もIMF&世銀主導のワシントン・コンセンサスへの批判の舌鋒は鋭いままです。それに加え、今回は様々な観点から現状のグローバリズムの歪みが明るみに出されています。
せっかくなので、目次をご紹介しましょう。

1章 不公平なルールが生み出す「勝者」と「敗者」
2章 発展の約束 - ワシントン・コンセンサスの失敗から学ぶ
3章 アメリカを利する不公正な貿易システム
4章 知的財産権を強化するアメリカの利権集団
5章 天然資源の収奪者たち
6章 汚染大国アメリカと地球温暖化
7章 多国籍企業の貪欲 - グローバルな独占を阻止する
8章 債務危機への道すじ - 借りすぎか?貸しすぎか?
9章 外貨準備システムの崩壊と「ドル大暴落」
10章 民主的なグローバリズムの道

ここで主に批判されているのは、アメリカ政府、その背後の産業や農業の圧力団体、IMFを中心としたワシントン・コンセンサスなどです。前半の数章を割いて、アメリカ政府が、ウルグアイラウンドや京都議定書に見られるように、「ルールメイキングで少しでも米国の不利になるなら、グローバルな合意形成に抵抗する、もしくは離脱する」という点がどんどん明るみに出されます。

途上国が一次産品の輸出から抜け出せないのは、彼らの後進性のゆえのみではなく、米国が加工品の輸入に傾斜関税を課しているせいでもあること、アメリカの農産物が安いのは、本来の価格ではなく莫大な補助金のゆえであること、国内で会計や環境への規制があっても、途上国ではわいろを用いて規制のゆるい中で、資源の収奪、環境の汚染に対して、払うべきコストが負担されていないこと、、、

「アメリカの企業は無駄がなく、競争力がある」と言われていますが、「政治献金やロビイングを用いて規制を撤廃させ、コストを下げつつ、環境破壊などのコストは負担せず、さらに補助金を獲得する。」という現実を鑑みると、単に払うべき費用を負担していないから、利潤を余計に得ることができているに過ぎないことがわかります。

4章の知的財産権の問題の中でもっとも胸が痛んだのは、政治献金がもっとも多いという製薬業界と、エイズ治療薬についてでした。エイズ患者のほとんどは貧しい途上国におり、安価なジェネリック薬品が待たれているにも関わらず、欧米の企業は知的財産権をタテに特許を公開しない。単に倫理上の問題だけでなく、知財の囲い込みが進むとイノベーション自体が阻害されてしまうという問題も指摘されています。

5章と6章の資源環境の問題は、個人的な興味と重なり合う部分も多く、興味深く読めました。先進国では天然資源の採掘に際しての汚染のコストなど、応分の負担が求められるようになっている、、ゆえに、企業は規制のゆるい途上国へ流出するインセンティブが強く働く。ここで、先進国の消費者も、自国の企業が海外で何をしているか、監視を強化しつつあるという例が挙げられていました。

最後のパートはおカネの流れの問題。途上国が借りすぎと言われるが、貸し手は借りる側の返済能力をどこまで査定した上で貸しているのかという問題。そして、「外貨準備金」というかたちで、アジア諸国などが市場リスクに備えるために高いコストでドル買いをハイペースで進めていること、それが実はドル暴落のリスクを高めていること、その問題を解決するために「世界紙幣」というアイディアが紹介されています。

この本を用いて日本を振り返ると、痛い点がたくさんあります。その中でも一番考えさせられるのは、日本のコメなど農産品に対する補助金は、中国やタイからすれば障壁だし、外国人労働者を制限していることも、フィリピンから見れば「サービス産業に関する障壁」です。日本だって、本当はアメリカのように、グローバル経済の中でも、自国にだけ都合の良い部分を取り入れたいのは同じなんですよね。でもアメリカの独善ぶりを非難するならば、日本だって他国に対してフェアかどうか、考えないで通り過ぎるわけには行かないことに気づかされます。

この本の最大の特徴は、単なる「グローバリズム批判」にとどまらず、上に上げたように色々な解決策、策とは言わずとも解決の糸口が紹介されていることでしょう。

もちろん、圧力団体の財力を考えたら、これらの策が実行に移される可能性はまだまだ低いでしょう。では本書に意味はないのでしょうか。わたしはそうは思いません。わたしも含めて多くの人は、グローバル経済というのは、あらゆるものを絡めとってものすごい力で働く、抗えない潮流のようなものとして捉えていると思います。抗えない巨大な力の前に、人々は無力になってしまうものです。

スティグリッツのすごいところは、これが人為的な歪みに満ちたものであり、歪みを正すための方法はいくらでもある、という処方箋を示し、アクションを起こそうとする人々に、アクションプランの下書きを見せてくれたことでしょう。糸口さえあれば、無力にならずにどんなに小さくても行動を開始することはできます。

お金の力は確かにすごい、でもお金に頼らない世論の力も実はすごいのです。80年代までの南米の軍事独裁を批判し続けたアムネスティー・インターナショナルや、本書でも紹介されているCSR(企業の社会的責任)推進活動も、集まれば大きな対抗勢力になります。

ダヴォス会議(WEF)と世界社会会議(WSF)の双方に出席するスティグリッツですが、本書はWSFに代表者を送る側の、「もうひとつの世界は可能だ」と信じる人々にとっての、教科書的な本として、広く読まれていく本になると思います。たった1800円、この書評を読んで下さった方にも是非読んでいただきたいです。





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テーマ:国際経済 - ジャンル:政治・経済

この記事に対するコメント

おはようございます。
スティグリッツさんの著書はまだ読んだことはありませんが、手元にある月刊現代にもインタビュー記事として載っていますので、読んでみますね。

で、農業についてはまだまだ分からないことだらけです。
都会近郊では結構豊かな農村も見たりしますが、地方の農村に行くと身につまされるような感覚に囚われるような生活を見たりしますよ。
農業政策のどこかが間違っているのではないか、と思います。現在の補助金は大規模農家しか適用されていませんし。

地産地消がいいと私は考えているので、農作物は自由貿易に馴染まないのではないか、と思います。

途上国と先進国のバランスをどのようにしてとっていくか、大きな課題ですね。

【2007/04/13 09:27】 URL | とむ丸 #rZtJR6xo [ 編集]


本のご紹介とても参考になりました。
世界が平和に動くことはとても大切です。
しかし、それと同時に「地球を守るという環境問題の視点」からも取り組むべきであると考えます。
日本は資源がないから工業でやっていこうというのが私たちの育った時代の考えでした。
今の政治経済の中心にある人たちもこの考えなのでしょう。
しかし、これからの時代、日本のあるべき姿を考えると「限界集落」など地方の荒廃と農林水産業の復興を考えるときなのではないでしょうか。
自由貿易協定(FTA)によって農林水産物の自由化をより進めようという動きが「国際経済交流財団」にあります。
これによって地方の経済が更に打撃を受けることに危惧を感じます。
グローバリズムと世界の平和にはまだまだ難しい問題があると思います。
【2007/04/13 12:38】 URL | 健全なる母 #- [ 編集]

日本の農業
とむ丸様、健全なる母様、

コメントどうもありがとうございました。

>農作物は自由貿易に馴染まないのではないか
>「限界集落」など地方の荒廃と農林水産業の復興

わたしもお二人と共通の問題意識を持っています。地産地消は長距離輸送のためCO2を排出する必要もなく、本当はメリットは大きいはずですよね。スティグリッツも、石油消費の温暖化へのコストを考えたら、現在の輸送コストは低すぎる、と書いていました。

あと、農業補助金って、わたしたちから見れば環境保全や共同体の維持の費用であっても、輸出したい途上国の視点から見れば「不公正障壁」にしか見えない。この点は自分自身考えたことがなかったんですよ。途上国も以前は「反グローバリズム」だったけど、今は「グローバリズムを公正にしろ」と訴えを変えてきてるようです。(その点は、本書の3章のウルグアイ・ラウンド、ドーハ・ラウンドの交渉の経緯に詳しいです。)先進工業国側の「環境保全」「共同体維持」をどう正当化して途上国側に伝えるのか考えなくちゃいけない、という意味です。というのは、日本は主に今までのグローバリゼーションに関しては、誰がなんと言おうと、米国に次いで圧倒的に「受益者」の側だったわけですから。

個人的には持続可能な農業にも大いに関心はあるんですよー。(中高生の頃、庭先で無農薬で野菜を作っていたことがあるんです。)あと、スティグリッツも指摘しているように、GDPの経済指標としての問題点、それを克服するものとしての地域通貨などにも関心があるんですけど、それはまたおいおい学んでいこうと思っています。
【2007/04/13 16:13】 URL | みーぽん #- [ 編集]


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プロフィール

みーぽん

Author:みーぽん
複数の外資系秘書を経て英語通訳者に転身、2007年に夫の地元カリフォルニア州サンタクルーズに引っ越しました。
2年間こちらで環境金融の会社のアドミ&会計を担当した後、2009年からフリーで通訳・翻訳をしています。
TwitterのIDは@miepongです。



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