みーぽんBLOG from カリフォルニア
カリフォルニアから時事、政治、環境、日米比較などランダムに綴ります
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過剰処方と銃社会
以前、バージニア工科大学での乱射事件を取り上げ、抗精神薬の副作用について触れたことがありました。実は、いまだに検索エンジンでこのテーマをきっかけに私のブログを訪れてくださる方も多いのです。この事件の後もアメリカでは乱射事件が起こり続け、先週15日にはノーザンイリノイ大学の講堂で、この大学に以前在籍していた、大学院生が10数名撃ち、今のところ本人を含む7名が亡くなっています。


この大学院生、スティーブン・カズミアチェクは、高校卒業後、一時的に精神科の問題で医療施設に入所した経歴がありますが、大学に入ってからは非常に優秀で、教授陣や学生の間の評判も良く、事件当時はガールフレンドと同棲していました。今までの乱射事件のように、「絶望した内向的で嫌われ者」的なプロファイルとは大違いなのです。それが事件の動機を調べる中でも大きな謎となっているのです。

しかし、最近ガールフレンドがCNNのインタビューに答えて、「彼はザナックス、アンビエン、プローザックを飲んでいた」と言ったとのニュースを読んで、わたしは「また薬か」という感想を持たずにはいられませんでした。このニュースによれば、彼は月に一回精神科医との面談を持っていましたが、最近になってプローザックを飲むのはやめていたそうです。

ザナックス(Xanax)というのは強力な抗不安薬、アンビエンというのは導眠薬、プローザックは抗うつ薬で、どれも非常にポピュラーな薬です。これを処方したのが、一人の医師なのか、複数の医師からなのか、報道からはわかりませんが、これらの副作用の治験では、複数を併用することはおそらく考慮していないのではないか、と思います。

月に一度精神科医にかかる、ぐらいならアメリカにおいては全然普通のことです。処方薬をもらって、いままで健康的に大学生活を送り、大学院にも進学できたのだから、どこでまたボタンが掛け違ってしまったんだろう、と私も頭をひねらずにはいられません。複数の処方薬の長期服用、または突然やめたことによる複合的な影響ぐらいしか思いつかないのです。

一方で、先月にはあの、ヒース・レジャーが処方薬の過剰摂取で亡くなるという事故がありました。ヒース・レジャーは有名人なので目立ちますが、痛み止めのオーバードーズで亡くなるのは彼だけではありません。昨日のニュースでは、カンザス州のペイン・クリニックを経営する医師が収監された、というのがありました。AP通信の記事によれば、このクリニックだけでオーバードーズによって56名が死亡したそうです。

薬の過剰処方&摂取と銃というのは一見つながりがないようですが、製薬会社と銃器製造会社という業界を切り口にとれば、アメリカの迷宮の2つの大きな入り口であり、互いに錯綜しあってもいます。双方とも非常に強い政治力を持ち、アメリカの文化の深いところに根を下ろしています。

まず薬を取ってみると、アメリカでは処方薬の広告が非常に目立ちます。雑誌の折込から、テレビのコマーシャルまで、「氾濫している」というのがぴったりです。もちろん規制によって、副作用情報も同時に載せないといけないので、細かい字やさりげない音声で「こういう人は飲んではいけません、こういう症状がある人は医師に必ず相談してください」みたいな情報も載りますが、やっぱりさわやかな屋外の風景をバックに満面の笑みでブランコをこいでいる、みたいな映像のインパクトには負けてしまいます。

それから、日本のように予防医学や漢方などの伝統がないので、「症状が出た→即薬で症状を止める」というインスタントな思考回路しか存在していない気がします。日本は逆に投薬に対する抵抗がもっと低くてもいいような気がしますけれども。

一方で銃規制についてですが、実はイリノイ州ではバージニア工科大学の事件を受けて、今年から精神科で入所経験が過去5年以内にある人は、銃を購入できない、という法が施行される予定でした。イリノイの事件は法の施行以前でしたが、この法が間に合ったとしてもカズミアチェックの場合入所経験から5年以上経っているのであてはまりません。

向精神薬服用者全部にすればいいんじゃない、となると、アメリカの成人の2割ぐらいがカバーされてしまうかもしれません。当然、ガン・ロビーとしてはそんな法律を成立させてしまうわけにはいかないでしょう。

銃に対する規制がなぜなされないのか、アメリカ人以外、世界中のすべての人々はたぶん疑問に思うわけですが、ここに立ち入るとエンドレスの議論になりそうです。ボウリング・フォー・コロンバインを見た人ならご存知のように、アメリカの建国の歴史自体が、先住民を銃と火薬の力で駆逐して土地を獲得した上に成り立っています。もちろん、白人の立場からすれば、「誰も住んでいない土地を、苦労して開墾したのに、家畜や農作物を盗む泥棒であるインディアンから自分たちの土地と財産を守っただけだ」ということになります。

さらに、奴隷解放令以降は、白人たちは「自由になった黒人にどんな復讐をされるかわかったものではない」という恐怖のゆえに、銃で過剰防衛することが当然のことになりました。ハリウッドにおいて、「凶悪な見知らぬ殺人者を、追い詰められたかよわい女性や弱気だった若者が最後に撃ち殺してハッピーエンドになる」というストーリーが良くありますが、実際の銃による殺人はほとんどは身内によるものであり、見知らぬ他人に対する大量殺人の多くは白人男性によるものです。ここに世論を形作るプロパガンダの怖さを感じます。

アメリカには母国を捨てて、未知の土地を恐れず、競争に打ち勝って財産を勝ち取るという目標を持った、開拓者のDNAの濃度が世界中で一番強いところだと思います。ところが、たまたまこんな土地に生まれても、競争が苦手で目立つことが得意でない人々にとってはたまったものではありません。自分に勝ち目はない、とコンプレックスを感じたり、恐怖や不安にさいなまれるようになることも当然でしょう。

アメリカは自由とアメリカンドリームの国であると同時に、その影にある不安と恐怖と戦う国でもあるのです。日本の「出る釘は打たれる」「空気を読めない人はダメ」という同調の強制も私は嫌ですが、「不安に打ち勝つために、人を殺せるという達成感を得てから自殺する」という捻れた病理(マンションからの投げ落とし事件や宅間被告がそうですよね)はアメリカほどひどくない、なったとしても薬や銃というツールがアメリカほどまだ流通していないのはありがたい、そう感じているところなのです。
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テーマ:アメリカ合衆国 - ジャンル:政治・経済

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プロフィール

みーぽん

Author:みーぽん
複数の外資系秘書を経て英語通訳者に転身、2007年に夫の地元カリフォルニア州サンタクルーズに引っ越しました。
2年間こちらで環境金融の会社のアドミ&会計を担当した後、2009年からフリーで通訳・翻訳をしています。
TwitterのIDは@miepongです。



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